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飼い方

 作者がハエトリを飼育している方法を紹介します。まだまだうまくいかないものもいますが、とりあえずこの方法でだいたいの種は飼えます。
容器
 大きいものを用意する必要はありませんが、共食いするので 1 匹ずつ分ける必要があります。逃げ出さないこと (重要、最下部参照) と乾きやすすぎないこと、蒸れないことなどが条件です。作者は 50 匹以上飼っていることもザラなので、できるだけ簡素に済ませるために 8 × 6 cm くらいの小さめのタッパーを使っています。
これが積んであります。標本のラベルほどは丁寧でなくてもよいですが、いつどこで (誰が) 採ったかわかるように蓋に書いておきます。書いておけば、いざ標本にする時にラベルを書くのも楽です。なお、穴を空けると乾燥しやすくなるので不要です。稀にこのタッパーに、本来の使い方通りに野菜などを入れて食べている人を見かけますが、ゾッとします (笑)
 生きた虫しか食いません。これが最大の壁です。「ハエトリ」の名のようにハエを食うものも多いですが、他の虫も食いますし、むしろハエを食わないものもいます。作者がこれまでに食わせたことのあるエサを挙げます。
エサ
ショウジョウバエ
 自分で採ってもよいですが、爬虫・両生類のエサ用に飛べない系統が売られているので、これを培地で湧かして与えます。ハエの世話も必要になりますが、毎回エサを採ってくるよりは圧倒的に楽です。作者はいつもワイルドスカイさまにお世話になっています。ショウジョウバエを食ってくれるハエトリは比較的簡単に飼えます。
コオロギ・ゴキブリ
 これらも爬虫・両生類のエサとして売られています。マミジロハエトリの仲間やチャスジハエトリなど、比較的大型で食いつきの良いハエトリしか食ってくれませんが、これらを食えるとメキメキ成長します。
トビムシ
 適当に落ち葉や藁をシフティングすると採れるので、吸虫管で集めます。ネオンハエトリやヒメスジハエトリなどのごく小型の種や、生まれたての幼体のエサに適しています。また、アメイロハエトリの仲間はトビムシ以外を食ってくれたことがありません。亜成体から成体までくらいなら割といけますが、同じトビムシばかり与えていると栄養が足りないのか、だんだん弱って死んでしまうことも多いです。
スイーピングで入る昆虫類
 ざっくりまとめすぎて虫屋さんに怒られそうですが、草むらで適当に網を振ると虫がたくさん入ります。ヨコバイ、ガ、ハエの仲間などがハエトリのエサになります。ハチやカメムシ、カマキリなどは逆襲する恐れがあるので使っていません。本当はこの方法が一番栄養的にも良いものと思われますが、いかんせん毎日やるのは大変です。自然に恵まれたところの大学生や院生は毎日スイーピングしてください。灯火に集まる虫もありです。
クモ
 ケアシハエトリはクモを食います。ヒメグモやオニグモの仲間の他、ハエトリも食います。ちなみに少し高さのある容器の方がエサを捕りやすそうです。またケアシハエトリに限らず、多くのハエトリが「ハエトリを」食い、しかも元気になります。自然下でも食っているのを見かけるので良いエサなのかもしれません。自分より明らかに小さなハエトリならけっこう食いますが、カラスハエトリの仲間は戦闘能力が高いのでやめた方がよいです。過去にヤハズハエトリのメスの成体に小さなヒメカラスハエトリを与えたところ、しばらくして見たらヤハズハエトリが食われていたということがありました。
与え方など
 エサをやる頻度は毎日でなくてもよいですが、毎日食うだけやった方が早く成長します。幼体なら、満腹の状態が何日か続くと食わなくなり、繭のような住居を作って籠り、やがて脱皮をします。脱皮後数日も食いません。
 それから、ド日向で活動するハエトリはなかなかエサを食ってくれないことが多く、飼うのが難しいです。こうしたものは容器を窓際などの明るくて暖かい場所に置くと食ってくれる場合があります。
 水分は湿らせたティッシュや濾紙を入れて補給します。作者は 1.5 cm 四方くらいのティッシュ片に水をつけて入れています。ものすごく喉が (?) 渇いていれば寄ってきて吸いますが、平時は「容器内を乾かさないこと」の意義が大きいと思います。乾かしてしまいさえしなければ、エサをやらなくてもそうそうすぐには死にません。湿らせすぎると逆に調子を崩して死んでしまいます。
 また、しばらく乾燥させてしまったりして弱った場合には、同じ要領で砂糖水を与えると復活する場合があります。
重要・必読】持ってきた生き物を逃がしてはいけない
 私たちの周りにいる生き物たちは、日本中どこに行っても同じなわけではなく、土地によって顔ぶれが違います。そして、その土地の中でメンバーみんながバランスを取りながら (ある生き物だけが増えすぎたりせずに) 共存しています。人間が他の場所から生き物を持ってきてしまうと、こいつを含めてバランスをとることはできず、もとのメンバーが追いやられてしまいます。これが「外来種」の問題です。外来種はなにもブラックバスやアカミミガメのように国外からの持ち込みに限った話ではなく、国内であれ本来いなかったところに持ってきてしまえば「国内外来種」となります。どの生き物がどんな影響を及ぼすかを正確に予測することはおそらく不可能なので、とにかく生き物を動かすのはやめるべきと作者は考えます。「おばあちゃんの家に行ったとき採ってきたオタマジャクシがカエルになったから家の庭に放してあげよう」「旅行先で採ってきたイモムシがきれいな蝶になったから放してあげよう」というのは (作者も幼いころさんざんやりましたが) 生き物から見たら善ではないのです。
 その土地にいない種を持ち込むのはもちろんアウトですが、同じ種であってもよそから持ってきてはだめです。同じ種と言えど、住んでいる地域が違えば自由に交流できないので「遺伝子の違い」があります。これは目に見えて模様が違ったりする場合もありますが、多くは目に見える違いがありません。しかし、遺伝子が違うものを人間の手で混ぜ入れてしまうと、その群れがうまく続かなくなってしまう恐れがあります。例えば、同じ種でも東北に住んでいる群れは関東に住んでいる群れよりも冬の寒さに強いかもしれません。関東の個体が東北の群れに入ると、せっかく育んできた東北の「寒さに強い遺伝子」が純粋ではなくなり、寒さに弱くなって死んでしまう、ということが起こるかもしれないわけです。この例は適当に考えましたが、そういう危険がいくらでもあります。「ホタルのいる風景を取り戻すために、以前いたのと同じ種類をどこかから持ってきて川に放そう」というのもだめです。生き物が自力で移動してくる速さはとてもゆっくりなので自然も対応できますが、人の手で動かすと変化がとても急なので、ひずみが生じます。
 
 というわけで、採ってきた生き物は絶対に外に逃がしてはいけません。逃げる可能性のある飼い方・扱い方もしてはいけません。採ってきた生き物は「最終的に殺すか、死ぬまで飼い、死んだら標本か可燃ゴミにする」というのが責任です。「庭にお墓を作って埋める」というのも、道徳的には善に思えますが、よそから来た生き物にくっついた菌や細菌、ウィルスなどを土を介してばら撒いてしまう可能性が高いので作者はアウトと思っています。どれだけ好きだろうがどれだけ可愛かろうが「殺して標本にする、でなければ焼却する」、このルールを守れないなら生き物を採ったり飼ったりしてはならないと思います。これを貫きながらも道徳心を育むやり方だってあるはずです。万が一逃がしてしまった場合は猛省して対策を練りましょう。
 
 お説教したいわけではなく、この項目は自戒の意味が大きいです。
 
 
 
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